病院やクリニックの経営において、「どの患者に選ばれたいのか」を明確にすることは非常に重要です。

医療機関では、一般企業のように商品を自由に販売するわけではありません。しかし、地域には複数の病院やクリニックが存在し、患者は立地、診療内容、専門性、口コミ、通いやすさなどを比較しながら医療機関を選んでいます。

そこで役立つマーケティングの考え方が「STP分析」です。

STP分析を活用することで、

  • どのような患者が地域に存在するのか
  • 自院はどの患者層に注力すべきなのか
  • 地域の中でどのような病院として認知されるべきなのか

を整理できます。

この記事では、病院におけるSTP分析の考え方と具体的な進め方を、医療マーケティングの視点からわかりやすく解説します。

STP分析とは?

STP分析とは、マーケティング戦略を考える際に用いられる代表的なフレームワークです。

STPは、次の3つの頭文字を表しています。

  • Segmentation(セグメンテーション):市場を分ける
  • Targeting(ターゲティング):狙う市場を決める
  • Positioning(ポジショニング):市場での立ち位置を決める

簡単にいえば、

「どんな患者がいるのか」

「その中で誰に選ばれたいのか」

「その患者にどのような病院として認識されたいのか」

を順番に考える方法です。

病院経営においても、診療圏内のすべての患者に対して同じように情報発信するより、自院の強みを必要としている患者を明確にしたほうが、より効果的なマーケティング戦略を設計できます。

なぜ病院にもSTP分析が必要なのか

病院やクリニックを取り巻く環境は、それぞれ大きく異なります。

例えば同じ内科でも、

  • 駅前にあるクリニック
  • 住宅街にあるクリニック
  • 高齢者が多い地域のクリニック
  • オフィス街にあるクリニック

では、来院する患者の特徴が異なります。

そのため、他院で成功した集患施策をそのまま導入しても、自院で同じ成果が出るとは限りません。

重要なのは、自院が存在する地域の患者ニーズを理解することです。

STP分析を行うことで、「とりあえずWeb広告を出す」「とりあえずSNSを始める」といった施策先行ではなく、誰に何を伝えるべきなのかを整理できます。

病院におけるSegmentation(セグメンテーション)

最初に行うのがセグメンテーションです。

セグメンテーションでは、診療圏内にいる患者をいくつかのグループに分けます。

病院の場合、さまざまな切り口で患者層を分類できます。

年齢による分類

例えば、

  • 子ども
  • 若年層
  • 子育て世代
  • 中高年
  • 高齢者

などです。

年齢によって医療ニーズは大きく異なります。

小児科であれば子育て世代が中心になりますが、整形外科では高齢者の割合が高くなる可能性があります。

地域による分類

病院経営では、商圏ではなく「診療圏」という考え方が重要になります。

例えば、

  • 徒歩圏内
  • 車で10分圏内
  • 同じ市区町村
  • 周辺自治体

などです。

診療科や病院の専門性によって、患者が移動する距離も異なります。

一般的な内科であれば近隣住民が中心になりやすい一方、高度な専門治療を提供している場合は、より広い地域から患者が訪れる可能性があります。

症状や疾患による分類

患者が抱えている症状や疾患によって分類する方法もあります。

例えば整形外科であれば、

  • 腰痛
  • 肩こり
  • 膝の痛み
  • スポーツ障害
  • 交通事故による怪我

などに分けられます。

同じ診療科でも、患者が医療機関を探す理由は異なります。

患者の行動による分類

医療機関を探す方法にも違いがあります。

例えば、

  • Google検索で探す
  • Googleマップで探す
  • 家族や知人から紹介される
  • 他の医療機関から紹介される
  • SNSで情報を確認する

などです。

患者がどのような経路で病院を知るのかを把握することで、集患施策を設計しやすくなります。

病院におけるTargeting(ターゲティング)

次に、分けた患者層の中から自院が重点的に対応するターゲットを考えます。

ただし、病院のターゲティングは「特定の患者以外を診療しない」という意味ではありません。

マーケティング上、どの患者層に対して自院の特徴を強く伝えるのかを決める考え方です。

例えば整形外科で、

「地域住民全員」

を対象に情報発信するより、

「スポーツによる怪我に悩む学生や社会人」

と設定したほうが、発信する情報は具体的になります。

ホームページでも、

「地域の皆さまに寄り添う医療」

だけではなく、

「スポーツ障害の診療に対応」
「競技復帰までをサポート」

など、患者が自分に関係する医療機関だと判断しやすい情報を発信できます。

病院のターゲットを決める際のポイント

病院のターゲティングでは、患者ニーズだけを見るのではなく、自院の強みとの一致を確認する必要があります。

例えば、

  • 医師の専門分野
  • 医療設備
  • 診療体制
  • スタッフ体制
  • 立地
  • 診療時間
  • 地域人口
  • 周辺競合

などを考慮します。

患者ニーズが大きくても、自院が十分な医療サービスを提供できなければ適切なターゲットとはいえません。

反対に、自院に高い専門性があっても、地域に十分な患者ニーズがなければ経営上の成果につながりにくくなります。

重要なのは、

「患者が求めていること」

「自院が提供できること」

が重なる領域を見つけることです。

病院におけるPositioning(ポジショニング)

最後に、自院が患者からどのような病院として認識されるべきかを考えます。

これがポジショニングです。

例えば同じ内科でも、

  • 仕事帰りに通いやすい内科
  • 高齢者の慢性疾患管理に強い内科
  • 生活習慣病の予防に力を入れる内科
  • 女性が相談しやすい内科

など、さまざまなポジションが考えられます。

重要なのは、病院側がどう思っているかではありません。

患者の頭の中でどのように認識されているかです。

病院のポジショニングで重要な3つの視点

1.患者にとって価値があるか

どれだけ独自性があっても、患者が求めていなければ意味がありません。

患者が医療機関を選ぶ際に重視するポイントを理解する必要があります。

2.競合と違いがあるか

周辺の病院がすべて同じような情報を発信している場合、自院の違いが患者に伝わりません。

競合医療機関のホームページや口コミ、診療内容などを分析し、違いを整理します。

3.実際に提供できるか

広告やホームページで打ち出した内容と、実際の医療体験が一致していることも重要です。

「待ち時間が短い」と訴求しているにもかかわらず、実際には長時間待たされる状態では、患者満足度を下げてしまいます。

病院のSTP分析の具体例

ここでは、住宅地にある整形外科クリニックを例に考えてみます。

Segmentation

診療圏内の患者を、

  • 高齢者の慢性的な腰痛・膝痛
  • スポーツをしている学生
  • 働く世代の肩こり・腰痛
  • 交通事故による怪我

などに分類します。

Targeting

地域人口や競合状況、自院の医師の専門性を分析した結果、

「スポーツによる怪我に悩む学生とその保護者」

を重点ターゲットに設定します。

Positioning

周辺には一般的な整形外科は多いものの、スポーツ障害を明確に打ち出している医療機関が少なかったとします。

そこで、

「地域の学生アスリートの競技復帰を支援する整形外科」

というポジションを設定します。

そのうえで、

  • スポーツ障害に関するSEO記事
  • Googleビジネスプロフィールの情報充実
  • 学校やスポーツチームへの認知施策
  • リハビリ設備の紹介
  • 症例や治療方針の情報発信

などを実施します。

このように、STP分析から具体的なマーケティング施策へつなげることができます。

病院のSTP分析で活用したいデータ

STP分析は、経営者や院長の感覚だけで行うべきではありません。

できる限り実際のデータを活用することが重要です。

例えば、

  • 年齢別人口
  • 世帯構成
  • 人口増減
  • 昼間人口と夜間人口
  • 周辺医療機関
  • 診療科目
  • 口コミ
  • 検索キーワード
  • Webサイトのアクセスデータ
  • 来院患者の住所
  • 新患数
  • 再来院率

などが分析材料になります。

これらの情報を組み合わせることで、診療圏内の患者ニーズをより具体的に把握できます。

病院のSTP分析でよくある失敗

ターゲットを広く設定しすぎる

「地域のすべての患者」をターゲットにすると、メッセージが抽象的になりやすくなります。

医療機関として幅広い患者を受け入れることと、マーケティング上の重点ターゲットを決めることは別です。

自院の強みだけで考える

「当院には最新設備があります」といった強みだけを基準にすると、患者ニーズとのズレが生まれる可能性があります。

患者がその設備にどのような価値を感じるのかまで考える必要があります。

競合を見すぎる

競合病院との差別化は重要ですが、競合だけを見て戦略を決めるべきではありません。

最終的に病院を選ぶのは患者です。

競合に勝つことではなく、患者に選ばれることを目的にする必要があります。

STP分析の後に実施するマーケティング施策

STP分析は、分析して終わりではありません。

決めたターゲットとポジショニングを、実際の施策へ反映します。

例えば、

ホームページ

ターゲット患者が求めている情報をわかりやすく掲載します。

SEO

患者が検索する症状や治療方法についてコンテンツを作成します。

MEO

Googleマップ上の情報や口コミを充実させ、地域検索からの来院につなげます。

Web広告

検索広告などを活用し、特定の症状や診療ニーズを持つ患者へ情報を届けます。

口コミ

実際の患者体験が蓄積されることで、これから病院を選ぶ患者の判断材料になります。

重要なのは、複数の施策をバラバラに実施するのではなく、STP分析で決めた戦略に沿って一貫した情報発信を行うことです。

病院マーケティングでは「誰に選ばれるか」を明確にする

病院マーケティングというと、広告やSEO、MEOなどの集客施策をイメージする人も多いでしょう。

しかし、本来マーケティングで最初に考えるべきなのは手段ではありません。

「どの患者に、どのような価値を提供するのか」

を明確にすることです。

STP分析によってこの部分を整理できれば、ホームページ、SEO、広告、Googleマップなどの施策にも一貫性が生まれます。

まとめ

病院におけるSTP分析では、

Segmentationで患者市場を分け、

Targetingで重点的に情報を届ける患者を決め、

Positioningで患者からどのような医療機関として認識されるかを設計します。

重要なのは、フレームワークを埋めることではありません。

地域の患者ニーズ、自院の強み、競合環境を分析し、「自院が最も価値を提供できる市場」を見つけることです。

株式会社Akatsukiでは、消費者アンケートや商圏・競合分析、Webマーケティングなどを活用し、企業や組織のマーケティング戦略設計を支援しています。

病院やクリニックの集患施策を考える際も、いきなり広告やSEOを始めるのではなく、まずは「誰に選ばれる病院を目指すのか」を整理するところから始めることが重要です。